HEIWA・PGM Championship 2019  11/7(THU)8(FRI)9(SAT)10 (SUN)PGMゴルフリゾート沖縄

ショーン・ノリス、歓喜の涙に隠れた、家族のために最高の結果を…
第1ラウンド

空を見上げたなら、南国沖縄ではなく、英国の冬を思わせるような鉛色の雲が覆っていた。気温22.7度ながら毎秒6.4メートルの風が体感温度を下げる。長袖ウインドブレーカーやパーカーを着込んでいる地元ギャラリーの姿がコースにあった。

午前8時の1番組ティオフ時点での大会風景。インコースからスタートした選手の中で唯一ボギーを打たず、3つスコアを伸ばした選手が一人だけいた。

12番からの3連続バーディで3アンダーとし、迎えた18番・パー5。ティショットをフェアウエイ左サイドのバンカーに打ち込んだ。9番アイアンでレイアイップしようとした2打目がバンカー前方のアゴに当たって打ち出せず、3打目でグリーン手前80ヤードに運んだ。4打目をピン右手前5メートルに寄せ、パーパットをねじ込むと思わず笑みがこぼれる。コンビを組んで11年目となった帯同プロキャディー小田亨とアイコンタクト。(パーで、うまく切り抜けられたね)。武藤俊憲は好調な流れを切らずに後半のアウトコースへと歩を進めたのだった。

「難しいですよ。本当に難しい。風もラインも間違えましたが、このところショットが良いのでうまく(スコアを)まとめられたと思います。風が吹き、一筋縄ではいかない、悩まされるコースですよね」と武藤はこの日のラウンドを振り返った。7バーディー、ノーボギーの65で首位の座に就いた。

「(風対策としては)距離感はもちろん、ショットイメージをしっかり作ってから打つようにしました。ボールをどこへ落として、どこまで転がり、どの辺に止まるかまでを考え、決めてからアドレスするようにしましたね」。

“赤城おろし”という別称もあるほどの木枯らしが強く吹き下ろす群馬県赤城市でゴルフの腕を磨いた経験が生きた。風を苦にせず、ショットイメージの作り方には長けている。

本戦前日のプロアマ大会では“料理の鉄人3人衆”と言われる道場六三郎、坂井宏行、陳建一さんとラウンド。「3人ともゴルフが上手で、特に道場さんのいつも変わらないルーティーンはとても勉強になりました。3人から頂いたパワーを無駄にはしたくありません」と武藤。前年は果たせなかったゴルフ日本シリーズJTカップへ、2年ぶりに出場するのが目下の目標。同シリーズ開会式で着る大会特製ベンチコートをコレクションしているのだ。

「ツアー選手としての証。一年間ツアーで戦ったご褒美ですから」。その目標達成のためにも大会制覇が必須条件だと、密かに自分に言い聞かせているに違いない。残り54ホール、武藤は風の鉄人と化して頂点を目指す。

第2ラウンド

希望の灯は、決して消えかかっていない。まだまだ灯り続けている。そんな気持ちをこの日のゴルフで証明してみせたのが、4アンダー6位タイからスタートしたショーン・ノリス。出だしのインコース11番・パー4でダブルボギーを先行させたものの、12、14番でバーディを奪い返すと、16、17番でもバーディパットを沈めた。さらに18番・パー5ではイーグルを奪い、トータル8アンダーで折り返す。

後半に入っても勢いは止まらず、4バーディを奪取し、結局1イーグル、8バーディー、1ボギー、1ダブルボギーの65でフィニッシュ。トータル11アンダーで単独首位に立ったのだ。

「予選ラウンド2日間はパットが非常に良かったことが(このスコアにつながった)一番の理由だと思う。パーセービングパットがよく決まってくれた」とノリスは笑顔をみせた。

平均風速は毎秒4.5メートル。ピンフラッグは相変わらずはためきっぱなしだったが、ローボールヒッターのノリスにとって風ゴルフは苦にならない。風向きによってはドライバーではなく2番アイアンでティショットを放ち、フェアウエイキープを最優先させるプレーに徹した。

「それでも65%くらいかな、キープできたのは。つねにバーディを獲りに行くのではなく、その場の状況に応じて無理をしないようにプレーするのが一番(の風対策)。我慢することが何よりも大切だと思っている」。

欲をかかず、パーをセーブすることだけでも順位を十分挙げられる。それが強い風の中でのゲーム運びなのだと言いたげでもあった。

パーがバーディ奪取に匹敵するだけに、パーパットをねじ込む集中力も必要になる。しかし、ノリスは第1ラウンドのパット数が29、第2ラウンドはさらに4ストローク縮めての25。しかも1パットのホールが第1ラウンドは7ホールだったのに対し、第2ラウンドは11ホール。好調パットが好スコアに結びついた。

長尺パターを愛用して8年の月日が流れた。そんなノリスが日課にしているパットドリルがある。カップから2メートルのストレートラインでヘッドを真っ直ぐに走らせるドリルだ。ティーペグでゲートを作り、スティックに沿ってストローク。その感覚を体に染み込ませ、試合中に再現させる。思い通りに打ち出してカップイン出来なかった時は「ラインの読み違い」と割り切れるから、ストレスはそれほど溜め込まずに済む。

試合前週の火曜日に元気な男の子が生まれた。傍に居たい気持ちもあったが、ゴルフが仕事だけに帰国せずに日本で“働いている”。「今年の目標は賞金王になることだからね。子供が生まれて、そのモチベーションは一段と高まりました」。目下、賞金ランキング4位。同1位の今平周吾とは約5200万円差だが、今大会の優勝賞金は4000万円。その差を一気に縮められるビッグチャンスだ。逆転賞金王という希望の灯が、我が子誕生でさらにメラメラと強まっている。

最終ラウンド

通算11アンダーの首位でスタートしたショーン・ノリスは、パーセーブが続いた。ショットが決して悪かったわけではない。グリーンは確実に捉えている。肝心のバーディパットがひと筋違ってカップインできない。

追いかけてくる足音が徐々に近づいて来る。速報版で片岡大育が着実にスコアを伸ばしていることには気づいていた。3打差が縮まって行く。前半9ホールすべてパーに終わったノリスのスコアが動いたのは14番・パー4だった。ティショットが深いラフに捕まったが、グリーンには乗せられそうなライだったのがラッキーだった。アイアンショットは相変わらず切れている。イメージ通りのショットを放ち、バーディパットをねじ込む。通算12アンダー。だだ、再びパーセーブが続き、最終ホールを迎えた時点では、首位タイになっていた。前の組でプレーする片岡が、先にバーディパットをねじ込み、ギャラリーから盛大な拍手と歓声、歓喜の指笛が鳴らされる。

その瞬間、ノリスは単独2位となった。首位の片岡とは1打差。最低でもバーディフィニッシュでプレーオフ。イーグルを奪ったなら再逆転での優勝だ。

シャフト長をあえて44インチに短くしたドライバーは、飛距離よりも方向性を重視したクラブ。持ち前の低い弾道でフェアウエイを捉えた18番・パー5。2打目はピンまで208ヤード。5番アイアンでピンを果敢に攻めた一打は、グリーンをキャッチし、ピン奥6メートルに止まった。

帯同キャディーを務めてくれた友人のチャイス・マナともラインの読みが合致した。下りのフックライン。日課にしているパットドリルのイメージを呼び起こすようにして素振りを繰り返した。そのイメージ通りに打ち出せたボールはラインに乗り、カップに沈んだ。逆転のイーグル奪取。ノリスは長尺パターから手を離し、両手で顔を覆った。流れ出した涙を誰にも見られたくはなかった。感動の涙が次々に溢れ出てくる。帯同キャディーと抱き合い、喜びを分かち合った。

「先週の火曜日に長男が生まれました。出産に立ち会い、そして南アフリカから日本に再び戻って来ました。実は父のパトリック(78歳)が病床に伏せていることもあり、二人のために何かできることはないかといつも考えていたのです」。ノリスが導き出した答えは、仕事であるゴルフで、最高の結果を出すこと。誰もがきっと喜んでくれるに違いない。自分に課した課題を劇的なイーグルパットでクリアーしてみせたのだ。

ツアー通算3勝目。賞金ランキングは2位に上昇。年頭に掲げた賞金王奪取も現実味を帯びた。その差は約2800万円。病の父のため、産まれて来た息子のため、そして父親となった自分のために成し遂げた大きな仕事。価値ある一勝だ。

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